AIによる要件定義とは、ヒアリングの準備から要件定義書の作成、抜け漏れの確認までを生成AIに支援させる進め方です。要件定義に特化したツールも登場し、上流工程での活用が広がっています。
一方で、AIが実装を速くするほど要件の誤りが後工程に与える影響は大きくなります。どこまで任せてよいのか判断がつかない担当者も多いはずです。
本記事では、要件定義でAIに任せられる作業と起こりやすい失敗、ツールの選び方を、システム開発の発注や推進を担当する方に向けて解説します。自社での進め方を検討する材料としてお使いください。
目次
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AIによる要件定義とは?従来の進め方との違い
AIによる要件定義は、要件を整理して文書にまとめる作業をAIに担わせ、人は判断に時間を使う進め方を指します。
従来の要件定義は、担当者の経験によって成果物の質が変わりやすい工程でした。ヒアリングの深さも文書の粒度も、担当するSEやコンサルタントの力量に左右されてきたためです。AIを挟むと同じ観点で情報が整理されるため、質のばらつきを抑えやすくなります。
ただし、変わるのは整理と文書化の部分だけです。何を作るかを決め、関係者の合意を取り付ける仕事は人に残ります。
要件定義そのものの流れや要件定義書に記載する項目については、システム開発の要件定義とは?進め方・失敗しないためのポイントをわかりやすく解説もあわせてご覧ください。
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※本シミュレーターは概算の目安です。実際の費用はヒアリング後にご提示します。
要件定義でAIに任せられる作業
AIに任せられる作業は、資料を読んで情報を整理する部分に集中しています。要件定義の流れに沿って、代表的な4つを取り上げます。
- ヒアリングの質問リストをつくる
- 議事録やメモを要件の形に構造化する
- 要件定義書のドラフトを書く
- 抜け漏れ・矛盾・あいまいな表現を洗い出す
ヒアリングの質問リストをつくる
まず、ヒアリングの前にAIへ質問リストの下案を作らせましょう。システムの目的や対象業務、利用者の人数といった前提を渡すと、業務要件・機能要件・非機能要件などの区分ごとに質問が並んで出てきます。
たとえば、経営層と現場担当者では、確認すべき内容が異なります。対象者を指定すれば、役割ごとに整理されたリストを受け取れる点も便利です。バックアップの方針や権限の設計など、業務部門が思いつきにくい項目を先に拾えるため、聞き漏らしを防げます。
議事録やメモを要件の形に構造化する
ヒアリングが終わったら、議事録をそのままAIに渡し、要件の形へ整理させましょう。話し言葉のまま貼り付けても、業務要件・機能要件・非機能要件・未確認事項といった区分に振り分けられます。
手作業なら数時間かかる分類が短時間で終わるため、内容の吟味に時間を回せます。また、要件どうしの矛盾や優先順位の案を同時に出させることも可能です。複数の部門から出た要望を突き合わせる場面で役に立ちます。
要件定義書のドラフトを書く
要件定義書のドラフトは、整理済みの要件を渡してAIに書かせると早く仕上がります。箇条書きの一覧を、仕様書らしい文章に整えてる作業はAIの得意分野です。担当者はゼロから書く負担がなくなり、確認と修正に集中できます。
なお、文書の様式が決まっている場合は、見出しの構成を先に指定しておくと手直しの量を抑えられるはずです。読み手はエンジニア、数値で書ける項目は数値で、といった条件を添えると、そのまま使える精度に近づきます。
抜け漏れ・矛盾・あいまいな表現を洗い出す
書き上げた要件定義書は、関係者を集めたレビューの前にAIへ一度読ませましょう。チェックをさせることで、AIからエラー処理の記述がない、性能の基準が数値になっていないといった指摘が返ってきます。加えて、同じ意味の言葉が文書内で揺れている箇所も検出できるため、用語の統一にも使えます。
顧客と取引先が混在しているような不統一は、人の目では見落としやすい部分です。このように事前のチェックを挟むと、レビュー会そのものを妥当性の議論に使えます。
要件定義をAIに任せたときに起こりやすい失敗
AIを使った要件定義では、速く進むのがメリットですが、見落としが後工程のミスに繋がりやすいのが欠点です。実務で起こりやすい3つの失敗を、対処の方法とあわせて整理しました。
- あいまいな表現がそのまま要件として残る
- 語られていない前提が抜け落ちる
- 要件と実装がずれたまま進む
あいまいな表現がそのまま要件として残る
あいまいな表現は、AIに渡してもあいまいなまま要件として残ります。使いやすい画面にする、処理を速くするといった発言を、AIは文脈から補わずに受け取るためです。
対策として、数値で書ける項目は数値に置き換えるルールを決めておきましょう。数値に置き換えることでAIにイメージを明確に伝えることができます。たとえば、要件定義において以下のように伝えるのがおすすめです。
- 処理を速くする → 検索結果を3秒以内に表示する
- 使いやすい画面にする → 入力から登録までを1画面で完結させ、画面遷移を2回以内に収める
- 大量のデータに耐えられるようにする → 同時接続100ユーザー、月間100万件の登録に対応する
ただし、上記のような数値の基準はユーザー部門が決定する必要がある点に注意してください。AIが出した文書をそのまま提出せず、あいまいな箇所に印をつけてユーザー部門への確認事項に変えていきましょう。
語られていない前提が抜け落ちる
そもそも要件定義の前提事項が抜け落ちていると、AIの出力精度が落ちます。AIは入力されたデータをもとに作業をおこなうため、人がオフラインで話し合ったことや社内の暗黙のルールは理解できません。
たとえば、メールで通知するという要件を考えてみましょう。この要件に社内での暗黙のルールである『営業時間外はメール送信しない』『失敗したらメールの再送が必要』というような条件は、設定しなければAIが勝手に実装するものではありません。
AIに必要な前提を伝えているか、前提の抜け漏れがないかのチェックを実行する手順を抜かさないようにしましょう。
要件と実装がずれたまま進む
要件と実装のずれは、AIで実装が速くなるほど起こりやすくなります。開発側がAIで機能を追加してもドキュメントの修正が追いつかず、要件定義書だけが古い状態で残るためです。たとえば、承認の段階を2段階から3段階に増やしたのに要件定義書は2段階のまま、といった食い違いが生まれます。
対策として、要件定義書を更新する担当者と、更新するタイミングを最初に決めておきましょう。毎週金曜に前週の変更分をまとめる、といった単純なルールを決めておくだけで、要件と実装のズレを防止できます。
要件定義を支援するAIツールの選び方
実際に要件定義を支援できるAIツールと、その選び方をまとめました。
| サービス | 提供元 | 得意な範囲 | 特徴 |
| CoBrain | エクスモーション | 要件定義書の作成と添削 | 企画書・議事録・既存の設計書から要件文書を生成。要求と仕様を抽出し、抜け漏れやあいまいな記述を一括でチェックする。WebアプリとWordアドインを提供 |
| Acsim | ROUTE06 | ヒアリングから設計書作成まで | 課題の抽出、改善方針の提示、プロトタイプ構築、設計書の自動生成までを一貫して支援する |
| GEAR.indigo Biz | ランスティア | 要件定義から設計工程まで | 会議メモやNotion連携から成果物を生成。既存コードの読み取りにも対応し、自社のAPIキーを持ち込めばツールの利用料がかからない |
- 解決したい課題からツールを絞る
- 入力したデータの扱われ方を確かめる
- 既存のドキュメント運用につながるかを見きわめる
解決したい課題からツールを絞る
まず、自社のどの作業に時間がかかっているかを書き出してから、ツールを選びましょう。文書作成の負担が大きいならCoBrainのように作成と添削に絞ったツール、上流の検討から設計書まで通して支援してほしいならAcsimのように範囲の広いサービスが合います。
もちろん汎用の生成AIでも、議事録の整理や下書きの作成までは十分に対応できます。ChatGPTやClaude、Geminiで試してみて、指示の書き方を工夫しても届かない部分があれば、専用ツールを検討してみてください。
入力したデータの扱われ方を確かめる
入力したデータの扱われ方は、契約前に必ず確かめましょう。要件定義書には業務の手順や取引先の情報など、外に出せない内容が多く含まれるためです。入力した情報をAIの学習に使わない設計かどうかは、各社が公式サイトで明示しています。
また、自社の環境で動かせるかどうかも確認の対象です。GEAR.indigo Bizのように自社で契約したAPIキーを持ち込む方式なら、要件の情報はツール提供元の環境を経由しません。社内のセキュリティ規程が厳しい場合は、持ち込み方式に対応したサービスから検討すると良いでしょう。
既存のドキュメント運用につながるかを見きわめる
要件定義にAIを導入する際は、既存のドキュメント運用との連携がしやすいかを確認します。
WordやExcelで管理しているのか、ConfluenceやNotionのような共有ツールに置いているのかを整理したうえで、そこに乗せられるかを確認しましょう。
たとえば、CoBrainはWordのアドインを提供しており、GEAR.indigo BizはNotionとの連携に対応しています。普段の作業画面のまま使えるかどうかで、担当者の作業工数が変わるため、その点についても必ず確認しましょう。
要件定義におけるAIと人の役割分担
要件定義をAIに任せることはできますが、人が何もしなくて良いわけではありません。要件定義で人が担うべき役割とは何かを解説します。
- AIに渡す前提情報は人がそろえる
- レビューの観点は人が言語化する
- 要件の決定と合意形成は人が担う
AIに渡す前提情報は人がそろえる
要件定義においてAIに渡す前提条件は、人が考えてまとめるようにしてください。用語集や現行の業務フロー、システムの制約といった材料がないまま指示を出すと、一般論の並んだ文書しか返ってこないためです。
具体的には過去の案件で使った資料をまとめたり、自社での暗黙のルールなどを細かくドキュメント化しておきましょう。このような資料は1つの要件定義ではなく、次のプロジェクトにも流用できるため、一度自社のルールを洗い出して可視化しておくと便利です。
レビューの観点は人が言語化する
要件定義のレビューで見るポイントは、人が言語化したうえでAIに読み込ませましょう。AIに何をチェックすべきかを読み込ませずレビューすると、表面的な指摘しかできないためです。実際にベテランのエンジニアが頭の中でチェックしている項目を洗い出し、AIに学習させることで、成果物の品質も向上します。
たとえば、非機能要件の網羅性、権限設計の定義、テストできる書き方になっているかといった項目を一覧化しておきましょう。このようなチェックの観点を明文化しておけば、経験の浅い担当者でも一定水準でレビューを回すことができます。
要件の決定と合意形成は人が担う
要件の決定や合意の形成については、人が担うべき業務です。どの機能を今回のスコープに入れるのか、部門間で要望がぶつかった際にどちらを優先すべきかなどは、組織の事情を踏まえた判断が必要なため、AIに任せることはできません。
基本的に上流工程で「決定・判断」を担う仕事は人、作業の部分はAIと切り分ける必要があります。
要件定義の先の工程まで含めた進め方は、AI駆動開発(AIDD)とは?システム開発のプロセス変革と導入ロードマップもあわせてご覧ください。
AIによる要件定義でよくある質問
AIによる要件定義について、寄せられることの多い質問をまとめました。導入を判断する材料としてお使いください。
要件定義をAIに任せると、どのくらい工数が減りますか
要件定義をAIに任せることで削減できる工数は、作業によって幅があります。議事録の整理や要件定義書の下書きなど、文章を書く部分では効果が出やすい一方、ヒアリングや関係者との調整にかかる時間はほとんど変わりません。
各社が自社検証にもとづく短縮効果を公表していますが、案件の条件で結果は変わるため、自社で試してから判断してください。
無料で使えるツールはありますか
完全無料のツールは限られます例えば、GEAR.indigo Bizのように、自社で用意したAPIキーを接続すればツールの利用料がかからない方式もありますが、AIの利用料が別途かかるため、費用が完全無料ではありません。
多くのツールには無料のトライアル期間が設けられているため、トライアルで使い勝手を確かめて、導入の可否を決めると良いでしょう。
機密情報を含む資料をAIに読み込ませても問題ありませんか
データの取り扱いを確認したうえで選べば、機密情報を含む資料でも読み込ませられます。ただし、学習に使わない設計であっても、データ自体はサービス提供元の環境に置かれます。
ツールごとにデータの扱いは異なるため、データがどこに保管されるか、提供元の社員が閲覧できる状態か、ログがどれだけ残るかまで見ておきましょう。
要件定義に特化したサービスには、閉じたネットワーク内での保管や、自社で契約したAPIキーを使いデータが提供元を経由しない方式を採るものもあります。取引先名や業務の手順など、外に出せない情報を含む場合は、そうした構成に対応したサービスを選んでください。
要件定義の担当者はAIに置き換わりますか
置き換わる可能性は低いと考えられます。AIが担えるのは情報の整理と文書化までで、何を作るかを決めることと、関係者の合意を取り付ける仕事は人に残るためです。むしろ開発が速くなるぶん、上流で正しく決められる担当者の価値は高まっていくでしょう。
汎用の生成AIだけでも要件定義は進められますか
指示の出し方を工夫すれば、多くの作業は汎用の生成AIでも進められます。役割と背景を最初に伝え、出力の形式を指定し、複雑な要件は段階に分けて聞くと精度が上がります。具体的な指示の書き方は、ChatGPTをシステム開発に活用する方法とは?プロンプトの基本から工程別の実践例までをご覧ください。
要件定義から開発まで一貫した体制をお探しならブライセンへ
弊社は、要件定義の段階からお客様と一緒に手を動かす形でシステム開発を支援しています。AIを使えば文書は早く仕上がりますが、業務の実態を聞き出し、要件として妥当かを判断する部分は人の仕事です。弊社では日本の担当者が現場へ足を運び、実際の業務を見ながら要件を固めていきます。
AIを活用した開発体制も整えており、上流の整理から実装、その後の保守まで通してご相談いただけます。要件がまだ言葉になっていない段階からでも対応しますので、お気軽にお声がけください。
詳しくはシステム開発支援ならブライセンをご覧ください。
まとめ
AIによる要件定義は、議事録の整理や文書の下書き、抜け漏れの確認といった作業で効果を発揮します。担当者の経験に左右されやすかった工程を、一定の水準で進められる形に変えられる点が利点です。
一方で、あいまいな表現がそのまま残る、語られていない前提が抜ける、要件と実装がずれるといった失敗も起こります。数値で書くルールを決める、前提を引き出す質問は人が投げる、文書の更新担当を決めるといった備えを、導入とあわせて用意しておいてください。
ツールは、自社のどの作業に時間がかかっているかを起点に選ぶと迷いません。データの扱われ方と、既存の文書運用に乗せられるかを確かめたうえで導入してください。AIと人の役割を整理し、手戻りの少ない要件定義をかなえましょう。
